「本を出したいと思う人にオススメの本」の第2弾。今回は『編集王』(土田世紀・著)です。
ストーリーは、ざっくり言うとこんな感じ。
主人公の桃井環八は子どもの頃に読んだ『あしだのジョー』に憧れてプロボクサーになったのだが、成績はサッパリの万年10回戦ボーイ。いつか矢吹丈になることを夢見ているのだが、KO負けした試合の後で、ボクサーにとっての死刑宣告である「網膜剥離」の診断を受ける。
途方に暮れる環八に幼なじみの青梅広道は、自分は勤めている出版社のマンガ編集部に遊びにくることを勧める。
環八は週刊マンガ誌の編集部でアルバイトをすることになる。しかし、酸いも甘いも噛み分けたマンガ家、売れるためには主義主張など屁とも思わない編集長、生き馬の目を抜くマンガ業界のリアリズムに、「純情真っ直ぐ君」の環八はことあるごとにぶつかっていく。
私が就職活動をしていた頃、この本は出版業界を志望する学生にとってバイブルのような存在になっていました。「出版業界って、あんなんだろうか?」というのが学生の合言葉になっていたし、会社訪問に行くと、先輩方からは「『編集王』の世界って本当なんですか?」って、必ず聞かれるよ、という言葉をよく聞きました。
実際、出版社に入社してみての感想は、マンガですからデフォルメがありますが、底流に流れている根本テーマは間違っていません。
さて、その第3巻に、こんな話があります。
環八は文芸誌編集部に配属される。そこの編集長は文学に誇りを持っているのだが、会社からは「返品だらけの慈善事業」と揶揄される。環八は文芸誌を売るために誌面のリニューアルを行う。環八と編集長は喜び勇んで営業部に乗り込む。営業部長は当たり障りのない部数増でお茶を濁そうとするが、現場の最前線で仕事をしている営業部員・東名に「1部たりとも増刷する必要はない」と断言されてしまう。
続けて東名は「編集者の勘違いが、どれほど書店を苦しめているか?文芸誌を欲しいと思っている書店など存在しない」と言い放つ。そして、「その証拠に……」と、翌日の朝、ある駅前の書店に来るように言い渡す。
翌日の朝、指定された書店に行ってみると、そこは返品作業の戦場だった。毎日、山のように新刊書が配本されてきて、同じぐらいの量の返本がされる。1年中、毎日が引っ越しのよう。そして、梱包は解かれたが、棚に並べられることなく返本される多くの書籍や雑誌たち。それらは、書店のバックヤードにひっそりと積まれ、葬送への道をただ待つのみであった。
東名は言う。「毎日の配本と書店のスペースが割が合ってねぇ……。だから、売れそうもない本はドンドン返本するしかねぇ。いい本悪い本ってのは、今の書店には通じねぇのさ」
書店員は本当に忙しい。毎朝の本の積み下ろし、在庫管理、接客、休まる暇がありません。基本的に薄利多売の商売(書店の取り分は定価のおおよそ20%)。そこに売れない本が加わるとすれば、同情するほかありません。
商品開発の現場で「顧客目線」という言葉がよく言われます。本を書く場合も、読者を想定して書くことが重要であることは言うまでもありません。更に、本の書き手にはもう一つ「書店目線」も必要です。
自分の本が書店のどの棚に並べられるのか?どういう風に売られるのか?書店員の気持ちになって考えることも、売れる本を作るための大きな手助けになります。
そのためには書店に足繁く通うこと。実際に書店の棚を見て、自分の本が置かれる風景を想像するのが一番の方法です(これは私たち編集者が企画を考える時にも使えます)。
『編集王』はマンガとしても非常に面白いので、勉強の前に、作品として読むこともオススメします。


